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サロン外伝 第3章 画家を目指すアンリ

「絵描きになりたい? 正気か! なんとたわけたことを!」
17歳のアンリが、アルビの館を出てパリに行って画家の勉強がしたいというと、父のアルフォンス伯爵は烈火の如く、怒ったのです。

「そんなことだから、バカロレア(大学受験資格試験)に失敗するんだ。よいか、アデール、アンリから、絵の具と絵筆を取り上げるのだ。ノートに落書きばかりしてるというではないか? アデール、そもそもお前が甘やかすからいけない! 勉強に集中させなさい。アンリは、リセではいつも優秀だった。頭の良い子なのだから、医学や法律を学ばせてやればよい。学問に秀でれば、身体の障害など問題視されないはずだ。秋にもう一度バカロレアを受けさせて、大学に進学させるのだ」

アルフォンス伯は、妻のアデールを責めました。
伯爵は、息子の教育は妻任せにして、相変わらず、馬に乗っての狩猟三昧。
もっとも、伯爵家には、代々、絵を描く趣味があり、父のアルフォンスにもなかなかの画才がありました。
しかし、伯爵に言わせると

「絵を描くことなど、気晴らしにすぎん。戯れにすぎん。芸術を生業にする人間は、下卑た堕落した人間のすること。われわれ、高貴な家柄の者は、芸術を擁護するパトロンであって、芸術家に成り下がるのではない!」

と、芸術家は貴族に寄生する"パラサイト"と見ていたのです。

アンリは哀しい目をして、訴えます。
「父上は僕から、何もかも取り上げてしまおうとするのですか?
僕は、馬に乗りたいのです。
ハヤブサを操る勇敢な竜騎兵となって、父上に褒めてもらいたかった。
でも、それはできないのです。
僕は脚の成長が止まって馬にも乗れないです。
でも、見てください!
脚は早く動かないけど、手でクレヨンを握ると、
馬の蹄の音のスピードで絵が描けるんです。
絵筆を握ると、心が走ります。馬で駆けめぐるくらい、ワクワクするんです。
父上、僕から絵を取り上げないでください・・・・
父上、僕の話を聞いてください・・・
父上、父上、何故、僕と話そうとしてくれないのですか?
何故、背を、向けたまま、返事をしてくれないのですか?」

アンリと父親の確執は、アンリが画家を目指すと言ったときから、始まりました。
この確執は、37歳直前にアンリが息を引き取るまで、20年間も続き、親子の間に雪解けの和解はなかったと言われています。

でも、それは本当でしょうか?
親子が憎しみ合う物語は、古今東西たくさんありますので、確執が続いても不思議ではありません。
ですが、私が、ロートレックのミュージカルの脚本を書くにあたって、アンリと父・アルフォンスの閉ざされた心の闇に光を当てることから、テーマ捜しが始まりました。

この外伝でも、父と息子の気持ちに寄り添って、ロートレックの生涯を綴っていきたいと思います。
では、また続きを!

(さらだ たまこ)

 

 

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